隣の世界の覗き窓

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ももいろそらを(2013)〜その2〜

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実は今年の(まぁちゃん的)邦画No.1かなと思ってる今作。
続きを書くとか言っときながらこのタイミングとなってしまいました。書くこと覚えてるかな。。


前回のエントリはこちら↓↓↓
ももいろそらを(2013)〜その1〜



前回は主に、作品の撮り方の特徴と、いづみが魅力的ですげーんだよということを書きました。今回は、もう少し物語の構造とかテーマの部分について書きたいと思います。


女子3+男子1+大人1
「ももいろそらを」は極度に世界観が限定されています。浅い被写界深度、少ないロングショット、モノクロ映像、BGMなし……。そして何より画面を空間的・時間的に支配する登場人物の少なさです。基本的には女子グループのいづみ、蓮実、薫の3人と男子の佐藤、そして印刷屋の親父…という、女子3+男子1+大人1……という5人の芝居によって物語は構成されています。(一応、かずみくんや、ボウリング場で一役買う女のコ(名前忘れた…)もいますが、登場シーンの限られた脇役ですね。)


そして物語を押し進めているのも、他でもない彼らの芝居のみといっても過言ではありません。舞台装置がほとんどない(唯一の舞台装置は財布です。※後述)なかで、彼女達のあいだにある人間関係の危うい均衡……何よりもこれでもかという(会話というよりほとんど)押し問答の連続が、奇妙で不安定なバランスをとりながら物語の原動力になっているのです。


なんといっても芝居
というわけで、やっぱり見どころはお芝居なわけです。各所のレビューなんかを見ていると芝居については賛否両論。演技の基本ができてない。わざとらしくて見ていられない…という玄人評価のある一方で、リアルな女子高生の会話がお見事…とかいう書かれ方もしています。僕としては両方の主張がよくわかりますが、どちらかというと後者派でしょうか。


というのも、実際高校生を演じた彼らはほとんど芝居初心者。演技指導もかなり大変だったようです。僕も演技についてはまったく詳しくありませんが、いいとか悪いとかを感じることはもちろんできます。で、今回はやっぱりすごくよかったなと。


女子高生の会話って、ふだん飲食店とか電車の中で聞いてると、実はかなり芝居じみててわざとらしい喋り方をしてるんです。ときには聞いてる方が恥ずかしいくらいの演技っぽさがあります(まぁ大人も時としてそうですね)。もちろん全ての女子高生がそんな話し方をするわけではありませんが、ドラマや映画やアニメなどでイイと思った口調や言いまわしを意図的に、あるいは無意識のうちに引用したり、グループ内での役割に応じて、自分というキャラクターを作っていたりします(人間は演じる生き物って言葉もありますが今回はそれは置いておきましょうかね…)。


実社会でのコミュニケーションは、逆にフィクションの世界よりもわざとらしく、素人くさい演技で、舌足らずな口調によってやりとりされているんですね。「ももいろそらを」では、こうしたポイントを逆手にとって、役者のキャリア不足を補いながらリアリティのある芝居として成立させています。(実際、現代の口語というのはテレビ番組に大きな影響を受けているはずです。バラエティタレントの喋り方、お笑い芸人の定型的な文句、役割ごとに誇張されたドラマや映画の台詞…)


いづみが寅さんのマネをしている…という設定は前回も書きましたが、つまりいづみ役の池田愛さんは二重にいづみという人間を演じているわけです。寅さんを引用しながら芝居っぽく喋る女子高生いづみ…という役を演じる池田愛…ということですね。また、いづみという人間は奔放でありながら、接する人間によって態度を変えるという、一般的な器用さもきちんと持ち合わせています。実生活の中での演じ分けですね。この辺は、監督もインタビューで触れており、意図的な演出であったようです。


いづみ意外の高校生3人にも明確なキャラクター漬けがされており、それぞれがある意味で自分という(無意識の)役割を演じているように思います。服装や持ち物なんかも三者三様に分かりやすく違いがあって面白かったですね。



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座り方もみんな違いますね〜。



蓮実
体格もよく、3人の中でもリーダー気質な蓮実。しかし行動規範は3人の中でも一番軽薄で衝動的に見えます。何一つ自分ではやらないくせに仕切りたがる。自分の思うようにならないと威圧的に他二人を従わせる凄味も持っています。周りが見えておらず、自分のことが全然わかっていません。街頭でインタビューに行く際にペンすら自分で持っていないという自覚のなさww 。が、裏を返せば一途に佐藤を思う純粋さは他二人にはないエネルギーを感じます。物語が進むにつれて、新聞づくりにも没頭するようになり、率先して活動するようになります。恋心を通じて、彼女なりのちょっぴりな成長があった気がしますね。



女子の中でも一見、おっとりしたお嬢様タイプに見える薫。なんだか育ちもよさそう。しかしながら、3人の中で一番正直で絶対に本音しか言わないのが彼女。自分の意志でフェアな発言をします。新聞作りでも具体的に手を動かしてブレーンとなっているのは彼女です。他人に頼らず自分のことは自分でやるという頭の良さ、強さもあります。そうした一面の一方で、家庭内では恐らく本音は言えないようです。親の金銭感覚が狂い、自分がエロチャットで稼ぐ金で家族崩壊を防ごうとする危ういバランス…。新聞作りとチャットが忙しいという理由で陸上部もあっさり辞めてしまいます。そして一人で何でもやれる力がある一方で、精神的には友達関係に大きく依存しています。蓮実やいづみに必要以上に献身的になるのは、うまくいっていない家庭事情の裏返しのようにも思えます。


いづみ
女子高生らしいような、らしくないような、妙なアウトロー気質を持っているのがいづみ。高校に友達らしい友達もおらず、1人でプラプラしているようでいて、蓮実と薫という2人の腐れ縁になんとなく依存しています。どんなに気に食わないことがあっても彼女達を切り捨てるという選択肢はなさそう。こうした孤独さを持ちながら、社会を見下し、採点するのが彼女の日課。佐藤のことを天下りの息子と軽蔑しながら、自分は財布をネコババして勝手に中身を他人に貸すという、バランスを欠いた倫理観の下で生きています。そして社会に向けて嫌悪感を剥き出しにしながらも、世の中に対して自分は何もしていません。


佐藤
金持ちの息子。親のへそくりをパクった上に財布を落としたことから事件に巻き込まれます。ぶっきらぼうな喋り方で女子に対してあまり思いやりがあるようには見えません。彼は蓮実の恋心を知りながらも残酷に利用して新聞作りをさせています。まぁそこには自分が落とした金銭も絡んでいるのですが、交換条件で利用してやるという姑息さが見え隠れ。ところがなんと彼は同性愛者であり、病気の和己くんを一途に思い、何かしてやれないかと真剣に考える健気な男の子でもあるのです。気怠い口調で上から目線の彼ですが、いづみとの問答を見ていると、損得勘定や倫理観に関してはフェアでドライな一面があるようです。



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4人の関係が分かりやすいシーン。蓮実が佐藤にあしらわれているのがかわいいような可哀想なようなw



このように高校生達の特徴を考えてみると、全員が10代ならではの、アンバランスな行動規範・倫理観を持って行動しているように読み取れます。ピュアな思いや正義感があるものの、自分に都合がよく、危うさを孕んだ考え方を持っています。こうした4人それぞれのエネルギーがぐらぐらと不安定に均衡しながら物語を揺らし、ストーリーを進めているのです。



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とにかくやたら言い合いになります(笑)



金勘定で揺らぐ関係
上記のような登場人物同士のバランスの他に、もう一つ物語を動かすきっかけとなるのが金勘定です。4人(+1人)は今回、金の流れで繋がっており、そこにお互いの利害関係が絡みながら事態がややこしくなっていく。そして最後はめぐりめぐって、何の因果か持ち主の下へ金が帰ってくる。何よりもいづみが日頃から嫌悪している社会構造の縮図が彼らのあいだに構築されているのです。特に、最初は30万あった金が10万になり、15万になり、12万になり…と、巧みに金額のバランスが変わっていく様子は見事です。社会を動かす装置として、この場合は映画を動かすまさに舞台装置として、拾った財布=金が機能しています。いづみと佐藤のあいだの駆け引きがとても面白かったですね。



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この商店街を歩くシーンの長回しはよかったなー。


…というわけで?
なんとなく、物語を動かす構造がどんなものだったのか、というのを思い返してみました。芝居重視の今作はやはりメインキャスト同士の会話の押収で話が進んでいきます。そして「金」という小道具が唯一と言っていい舞台装置として重要な役割を持ち、登場人物を結びつけていきます。


ほんと、脚本がよく練られていると思いますね。女子3人のキャラクター分けも絶妙なバランスですし、一見、イケメン男子である佐藤が同性愛者だということで、一気に人物像に影と奥行きが生まれます。ともすればいづみと佐藤の恋愛構造になってしまいそうなところを、同時にうまく回避していますね。


またまた長くなったので次回に持ちこし。「ももいろそらを」ってどういう話だったのかなーと振り返りたいと思います。


続きはこちら↓↓↓
ももいろそらを(2013)〜その3〜