隣の世界の覗き窓

映画とか…漫画とか…虚構の世界をレビューするブログです。

ももいろそらを(2013)〜その1〜

ももいろそらを(2013)
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監督・脚本・撮影:小林啓一
プロデューサー:原田
キャスト:池田愛小篠恵奈藤原令子
     高山翼、桃月庵白酒
【作品紹介】本作が長編デビューの新鋭・小林啓一監督が、大金を拾った女子高生と友人が巻き起こすアクシデントを通して、現代に生きる若者の瑞々しい表情を全編モノクロームの映像で描いた青春ドラマ。新聞の採点を日課にしている高校生の川島いずみは、ある日、大金の入った財布を拾う。財布の持ち主を無事に探し当てたいずみだったが、そこから事態は思わぬ方向へ動き始め……。2011年・第24回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で作品賞を受賞した。(映画.comより)


去年に引き続き、今年もとっても素晴らしい邦画に出あうことができました…!まぁちゃん的には今年観た映画の中でNo.1の傑作度をマークしております。1月公開でしたが、6月に入っても渋谷アップリンクで再上映が決まり、ロングラン中です。ずーっと気になってたのに行けなくて、僕もやっとこ再上映初日の6月1日に鑑賞、監督とプロデューサーさんのトークまで参加してきました(^^)。
自分にとって特別な作品との出会いって、観る前からなんとなくビビッとくるんですよね。これ絶対自分好きだろうなーっていうのがタイトルとか、予告編とか、たった一枚のチラシやピンナップなんかから分かってしまうんです。こういう一本との邂逅は本当に得難いものです。ほんと、大げさですけど生きててよかったー!っていう気になっちゃいますね(笑)


ももいろだけど白黒…
「ももいろそらを」は全編にわたってモノクロ映像。BGM一切なし!手持ちカメラで屋外撮影がメイン。ドキュメンタリータッチで女子高生の日常を描くというなかなか挑戦的な一本です。長回しが多く、これらの特徴だけ考えるとヌーベルバーグ的な手法が散見されます。低予算でインディペンデントな映画ならではの撮影条件がこれらの共通点を生むわけですが、やはり監督の「何かありきたりでないものをやってやろう」という意識がビンビン伝わってきますね。


唯一無二のJKヒーローいづみ
今作の魅力はなんといっても主人公であるいづみのキャラクターです。終始、粗野な言葉遣いで活き活きと画面に君臨する彼女の姿は、他の映画にはない独特のオリジナリティ…存在感抜群です!とりえあず予告編を観るとその片鱗が観れます…笑




ももいろそらを/About the Pink Sky - Official Trailer2 - YouTube
あれ、意外と少ないかな…。




映画『ももいろそらを』予告編 - YouTube
もいっぽん!



彼女の独特のべらんめぇ口調?は『男はつらいよ』の寅さんが好きでそのマネをしているという設定らしく、近所の冴えない印刷屋の親父にもアニキとか呼ばれてます。いづみはビジュアル的には一見、イマドキの女子高生っぽくも見えますが、実際にどこかにいるリアルな女子高生…というわけではないでしょう。この日本のどこかにいるようでいない…そんな映画的な特別なキャラクターに仕上がっています(そういう意味でどこかヒーロー的なんですよねぇ)。ともすれば突飛でアバンギャルドになってしまいそうな彼女を等身大に画面に定着させているのが見事です。


特に、浅くて曖昧なフォーカスによって不意に浮かび上がるいづみの表情は素晴らしく魅力的!!かわいい…という言い方もできるんですが、なんというか、そういう女のコらしさというよりも、若い高校生としての健康的で瑞々しいエネルギーに満ちているというか。活き活きとしたイノセントな表情に何度もドキッとさせられます。基本的にずーーーっと眉間にしわを寄せ、世界に向かってガン垂れているいづみがイイんですが、病院のシーンで見せるにんまり顔がまたたまりません。この表情の対比は映画史に残ると勝手に思っています…w



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怒りや不快を顔全体でこれでもかと表現します。



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にんまり。


いづみは学校をさぼっては近所をぶらぶら。高校一年生ながらどうやら学校には仲の良さそうな友達はいないようで、いつも学校の違う蓮実と薫(多分中学の時の同級生)とつるんでいます。また彼女は毎日、新聞を読んでは書かれている記事に採点をするという奇妙な習慣を持っています。新聞片手に徘徊する様は(言葉遣いと合わせて)なんともどこか親父くさい(笑)。まさに寅さん的なアウトローな雰囲気を醸し出しています。学生を描いた作品ながら学校のシーンがほとんどないのも特徴的ですね。いづみのフーテン感が際立ちます。(唯一の教室シーンでは机に身体ごとつっぷしてやる気ゼロでした…w)



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JKとおっさんと釣り堀…。奇妙な組み合わせです。


ノーウェアランドのミニマムなドラマ
モノクロ映像で制作されている理由は、今作の設定が、2035年に40歳のいづみが過去を振り返っているから…ということらしいです。また、監督は「今この瞬間も、時間はつぎつぎに過去になっていく…」ということを意識してのことだとか。確かにモノクロ映像は限定的な時代感を切り取るような効果があります。
また、カメラの被写界深度が非常に浅く、フォーカスされた人物がくっきりと画面に浮かび上がる一方で、人物以外の背景はぼやけて主張を弱めています。これらの要素により、物語のスケールが時間的にも空間的にも、主人公達のごくごく周辺で起きているミニマムな範囲に限定されているといえるでしょう。また、街を特徴づけるようなランドマークのような物もなく、ロングショットも少ないため、舞台としての街そのものがあまりはっきりと把握できません(監督曰く:設定は東京の郊外のどこかとのこと)。建物の全景を映すようなシーンもほとんどなく、道ばたを歩いているか屋内か…という両極端。河原のシーンもありますが、川全体を映すようなカットはなくて、あくまで撮っているのは人物ですね。日本のどこかにいる普通の高校生たちの、日常の範囲で起こるドラマとしてスケールを抑制して物語が語られています。(全編通して不自然なほど大人が排除されている点も象徴的です)




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低い被写界深度。


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ピントから外れるとすぐに手前も奥もぼけちゃいますね。



以上のような感じで、まずいづみというキャラクター、そして制作のスタイルによってかなりオリジナルな土台が固まっている(厳密に言うと危うさを孕んだ土台なわけですが)作品です。これだけでも個人的にはツボ……と言いますか。面白いことするなぁ〜とワクワクしていしまいますね(笑)


さてさて……、こうした舞台設定の上で、物語がどのように動かされ何が語られているのか。


次回のエントリに続きます〜。


続きはこちら↓↓↓
ももいろそらを(2013)〜その2〜

ももいろそらを(2013)〜その3〜