隣の世界の覗き窓

映画とか…漫画とか…虚構の世界をレビューするブログです。

言の葉の庭(2013)

言の葉の庭(2013)
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監督・原作・脚本:新海誠
キャラクターデザイン・作画監督:土屋堅一
キャスト:入野自由花澤香菜
     平野文前田剛
     寺崎裕香
【作品紹介】雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」など、繊細なドラマと映像美で国内外から人気を集めるアニメーション作家・新海誠監督が、初めて現代の東京を舞台に描く恋の物語。靴職人を目指す高校生タカオは、雨が降ると学校をさぼり、公園の日本庭園で靴のスケッチを描いていた。そんなある日、タカオは謎めいた年上の女性ユキノと出会い、2人は雨の日だけの逢瀬を重ねて心を通わせていく。居場所を見失ってしまったというユキノのために、タカオはもっと歩きたくなるような靴を作ろうとするが……。キャラクターデザイン、美術、音楽など、メインスタッフには、これまでの新海作品とは異なる新たな顔ぶれがそろう。短編「だれかのまなざし」が同時上映。(映画.comより)



『言の葉の庭』 予告篇 "The Garden of Words" Trailer - YouTube


新海誠監督の新作。とっくに観ていたのにレビューが遅くなってしまいました。。はてなブログの旬のトピックにもずっと出ていたんですが、完全にタイミングを逃してしまった……orz


さて、今作について最初に述べておきたいことが一つ。
絶対に6月中に新宿バルト9で鑑賞してください!!※本稿執筆6月26日


そして観賞後はその足で新宿御苑へ向かいましょう。6月が終わっても梅雨明けしてなければまぁいいかな(笑)
次点は9月ですが、その頃には観れる映画館も少ないでしょうしね…。。


最新作は純愛中編
待ちに待った?新海映画。今回は長編とは言いがたい長さの小品に収まっています。上映時間は46分ですが、体感としてはもう少し長く感じましたね。同時上映の「だれかのまなざし」やその他の予告編のせいかもしれませんが。


内容は15歳の男子高校生と27歳の女性の純愛?もの。キャラクターのビジュアルと合わせて、今までの新海作品よりも大人な登場人物設定に思えます。今まで一貫して?近くて遠い、あるいは遠くて近い…引き裂かれた二つの世界と人間同士の距離…といったものを扱ってきた新海映画ですが、今作では唯一、“歳の差”がその種のモチーフということでしょうか。


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頭身どうなってるんでしょうかね……


新海誠初のリアリズム映画?
観賞後にまず個人的に覚えた感想は、「今までこんなにもリアリズムな語りに徹した新海作品があっただろうか。(いやなかったよね?)」ということです。「ほしのこえ」「雲の向こう、約束の場所」「星を追う子ども」はそれぞれSFやファンタジー的な舞台設定が物語を下支えしていたし、「秒速5センチメートル」はリアリズム作品ではありますが、“種子島”という主人公にとって異邦な土地が舞台として挿入されました。


これらの作品に比べ「言の葉の庭」は、東京都内…それも新宿近郊という限定的な空間を舞台にしています。宇宙戦争が始まるとか、突然モンスターが現れるとか、地下に広大な異空間が拡がっているとかの設定もありません。現代の新宿でごくごく普通の人間同士が繰り広げる、現実の世界を舞台とした物語です。


また、天候や背景がやや超現実的な誇張を帯びて雄弁に主張していた印象の強い新海作品ですが、今作ではそういった要素が自然な表現に落ち着いていると感じました。これは僕1人の主観ではないと思います。ちょっと具体的に例示ができないんですけどね…(怠慢)


そんなわけで、新海誠作品の中でも新しい傾向にあるものがリリースされたという印象を強く受けました。


美しくリビルドされる新宿御苑
今作一番の見どころはやはり、新海アニメーションで構築された新宿の街並、そして都会のオアシス新宿御苑でしょう。今まで新海作品では基本、都会について好意的にとれるシーンが少なかった(ような気がする)んですよね。ほんと暗かったり辛かったりな場面が多かったんです……。。それが今回はロマンティックな恋の舞台として、この東京の最もアーバン?といっても過言ではないコンクリートジャングルが描かれるのですよ!これまたなんだか新鮮です。



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3丁目方面から見た甲州街道


自分がふだん観ている街並がアニメーションとして蘇ること……それがこんなにエキサイティングなことだとは!!感嘆必至のシーンばかりです。特に、新宿という都市のど真ん中に、平日は半ば忘れられたようにひっそりと存在する新宿御苑(しかも雨の日ばかっかり)を、日常から隔絶された逢瀬の舞台としてチョイスしたのが素晴らしいです。


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空撮したんでしょうかね…。美しい…。


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新宿御苑


“歳の差”という距離
物語は15歳の男子高校生タカオと、27歳の国語教師ユキノのラヴ(未満?)ストーリーです。前半は主にタカオの、後半はユキノのモノローグで語られ、終盤で二人の視点が交わり、最後にはタカオ視点で物語が結ばれます。全体としてはタカオ寄りの語りになっているのですが、こうした一人称視点の比重のアンバランスさや、キャラクターの掘り下げの差が、そのまま二人の恋愛(といえるのかはさておき)に対する想いの強さの差に繋がっているようで面白いと感じました。


10代半ばの男の子と20代後半の女性が対等なレベルで関係を捉えることができるかというと、そうではないというのが現実でしょう。ユキノについて何も知らないまま恋心に焦がれるタカオと、タカオに好意と依存心を持ちながらも、彼が自分の学校の生徒だということを知っているユキノ。教師と生徒という設定が(ありきたりではあるものの…)絶妙で、ユキノにとってタカオが社会的に手を出してはならない存在であるという壁がきちんと設定されています。(昨今は歳の差恋愛にも寛容ですからね。この設定でブレーキをかけるのは大事です)


ユキノをひたすらに“女性”として見続けるタカオと、タカオをシンプルに“男性”とはみることのできないユキノ。ユキノにとってはどうしても大人としてのあらゆる経験・知識・立場etc…があるために、純粋に“個”と“個”としてお互いの関係を捉えることができない。こうした“歳の差”ゆえのギャップが、“知らないタカオ”と“知っているユキノ”という構造、そして教師と生徒という設定により、説得力をもって描かれています。うまいなぁー。


結局、タカオはユキノのことをひたすら想い続けますが、対するユキノは自分のことしか考えていません。ここんところがやっぱり残酷ですなー。ユキノは他者に向き合える状態ではない自省モードだからということもありますが、潜在的にタカオを自分と対等なフィールドに想定していないんですね。それで最後に「そんなのひどいよ!」とタカオに怒られちゃうわけです。


ほんと、二人のこの台詞がすべてですね…。

「あの人にとって、15の俺は、きっとただのガキだということ。」

「27歳の私は、15歳の頃の私より、少しも賢くない。」


キレイ(すぎ)なお話でした
全体的にとてもキレイな描写とまとまり方で、個人的にはちょっと物足りませんでした。なんだか今までの新海監督っぽい、中二臭さとか、とがった感じとか、ちょっとフェチな感じ(?)とか、そういうものが全部オブラートに包まれて、いや包まれてもおらず、キレイに見せたらこんなにスマートな味わいにできるんですよーという器用さの下にすっかり隠されてしまっておりました。。


題材だけ考えるとこれ、ものすっごくフェティッシュな描き方ができるはずの話なんですよ。生徒と教師、歳の差恋愛、雨に濡れる2人、靴を作るタカオの手、20代のOL風美人、同僚とあったっぽい不倫、年上の女性の一人暮らしの部屋、そして何より脚という身体へのフォーカス……。やろうと思えばいくらでもフェティシズムを喚起させられるんですよ。でもそれをやらない。行為は行為として、事実は事実として、それ以上の意味を画面には持たせない…そういうストイックさを強く感じました。


特にタカオがユキノの脚を触らせてもらうシーン。あそこ、あんなにきれいなもんかよおおおおお。タカオみたいな年頃(じゃなくても)の男の子があんなことしたら、もっとドキドキハァハァするもんだろうがよおおおおおお。そういうのやってくれないのかよおおおおおおお!!……とか劇場でずっと思ってましたよ僕ぁ…(笑)
まぁ、それをやらない故のタカオのピュアさ、一途さ…ということなんでしょうね。


(監督のインタビューではあのシーンについて、大前提として美しい行為であることを重視したみたいに言っていたような気がします。そして見ようによってはいやらしくも捉えられるよね…という。その意図は大成功していると思いますね。あぁ…。)


(勝手に思ってますが、新海さんは絶対20代のちょい上手くいってない系OLフェチです。)


そういうわけで、エロスを喚起する演出もなく、非常にきれいな作品として仕上がっています。キャラデザなんかもあいまって、今作は圧倒的に女性向けであると私は断言しますよ。もはやこれ、少女漫画なんですよ。ダメな女に、頼れる系の純情すぎる男。しかも禁断の年下高校生という設定。はい。ライトな描写を愛好する女性の皆さんは是非とも劇場へGOです。


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キャーーー!!!



シンプルで分かりやすい、からこそ物足りない
しつこいようですが、やっぱり物語としては個人的に物足りなかったです。作品としてはきちんと完成されているので、これ以上のやり方というのは目指すところを変えないかぎりできないし、そうするとまた全く違う作品になってしまうので、あくまで感想とか好みとして、、というレベルで。


特にやっぱり、ユキノというキャラクターの掘り下げがどうも浅すぎるんじゃないのかなってところが一番ひっかかりました。前述した通り、タカオとユキノの想いの比重が反映されてて、それはそれでいいなとも思うんですが、やっぱり彼女の行動原理がよくわからないし、どんな想いの揺れがあったのかというのが分かりづらいです。ま、タカオにもよく分かんなかったということなんでしょうけどもね。


(僕自身がユキノと同じような境遇を知っているということもあるかと思います。そのぶん、もっと突き詰めてくれよと思ってしまう。でもまぁ、タカオにもユキノにも両方感情移入はできました。)


階段のシーンでタカオが叫ぶところも、なんか言ってることが見当違いだし、演出が不自然に冗長になってしまってて微妙だなーと思ったりしちゃいました。もう少しさりげない感じでもよかったんじゃないかなー。


それから、やっぱり新海さんのスタイルだと、短編〜中編というのが長さとしては適切なんじゃないのかなーと改めて思いました。「秒速〜」も短編3作っていうのがよかったんですよね。「星を追う子ども」を観たとき、これを長編で見せられるには物語が間延びしすぎている……とか感じたくらいです。「言の葉の庭」でも長いくらいに思ったくらいです。


いずれにせよ、これからもどんどん模索していって欲しいですね。


技術とかスタイルについては、今作で間違いなく洗練されたレベルに達したということを見せつけられました。


せっかく以前のエントリで、新海作品の共通点……みたいなことを書きましたが、今回は思いっきり逸脱されましたしね…(笑)


そうそう、同時上映の「だれかのまなざし」もよかったです。


ユキノさん可愛かったなー。


ちゃんちゃん。


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ユキノさん…



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