隣の世界の覗き窓

映画とか…漫画とか…虚構の世界をレビューするブログです。

雲のむこう、約束の場所(2004)〜その1〜

雲のむこう、約束の場所(2004)
f:id:ma_shan:20130531010553j:plain
監督・原作・脚本:新海誠
キャラクターデザイン:田澤潮
キャスト:吉岡秀隆萩原聖人
     南里侑香石塚運昇井上和彦
【作品紹介】2002年に発表したフルデジタルの個人制作アニメーション「ほしのこえ」で一躍脚光を浴びた新海誠が、初めて挑戦した長編監督作。津軽海峡を挟んで南北に分断された戦後の日本を舞台に、世界の謎を背負った1人の少女を救うため葛藤する少年たちの姿を描いた。米軍統治下の日本。青森に暮らす中学生の藤沢浩紀と白川拓也は、海峡を挟んだ北海道に立つ巨大な塔に憧れ、いつかその塔を目指そうと廃駅跡でひそかに飛行機の組み立てにいそしんでいた。ある夏休み、2人はもうひとつの憧れの存在・同級生の沢渡佐由理に飛行機の秘密を打ち明ける。3人は一緒に塔を目指す夢を共有し、ひと時の幸せな時間を過ごすが、中学3年の夏、佐由理は理由を告げることなく転校してしまう。飛行機で塔を目指す夢もそのまま立ち消えとなり、3年の時が過ぎる。それぞれの道を歩んでいた浩紀と拓也だったが、世界情勢に暗雲が漂い、塔の秘密が次第に明らかになったことをきっかけに、2人は再会する。声の出演に俳優の吉岡秀隆萩原聖人。(映画.comより)


新海誠監督のアニメーションはちょこちょこと観ているんですが、今作でほとんどの作品(処女作の「彼女と彼女の猫」以外)を網羅できました。


いやはや、まず映画としてどうかというのは置いといて、新海誠氏の造り出す世界、これが唯一無二の圧倒的クオリティであることは間違いないでしょう。名前を冠にしたアニメーション作家として、宮崎、庵野、細田……などなどと並んで日本を代表するクリエイターなのではないでしょうか。



新海作品の特徴って…
作品それぞれの細部は結構うろ覚えなんですが、新海誠アニメの特徴としては以下の点が挙げられると思います。

①雄弁に主張する繊細で美しい映画舞台
②デフォルメされた人物描写
③少年少女の残酷な成長物語
④時間・距離の前に非力な我々人間
⑤通過儀礼としての喪失体験
⑥王道アニメジャンルの引用


僕の思いつく限りですが、こんなもんでしょうかね。こうやって羅列してみると、こりゃ面白くないわけない!っていうテーマが盛られている気がしますね。


なんといっても美しすぎる新海ワールド
①、②は画に関する特徴です。新海アニメを観ていると、映画とは、アニメーションとは画面全体で語る芸術なのだ……という意気込みがこれでもかと伝わってきますね。光と影のコントラスト、鮮やかな色彩、ドラマを過剰に演出する背景etc…。シュールリアリスティックな映像表現がストンと自然に観客の胸に入ってくるあたりがさすがです。



f:id:ma_shan:20130602013251j:plain
空の美しさは各作品必見。



SFアニメとかスタジオジブリ作品なんかと対比すると、新海作品は比較的現実にある材料で映像が構成されているというのが、誇張された表現を素直に受け入れられる要因かなと思います。メカとか妖怪とかモンスターとか爆発とか…そういった空想的なものではなく、空や雲、光、自然、日常風景といったある意味オーガニックなかつノスタルジックな材料で画面が構成されているのがミソでしょうね。



f:id:ma_shan:20130602013357j:plain
電車や踏切もよく出てきます。うっとりですね…。



これに対して②。人物画が非常にデフォルメされたアニメチックな絵柄であること。これがまた面白いんですよね。あそこまで繊細で丁寧な背景の描き込みをしていながら、人の顔はのっぺりとして目が大きく、ほっぺに斜線さえ入ったりしてるわけです(そのせいでなんかちょっとラノベっぽいんですよねぇ雰囲気がw)。「そこがいやだ」という人もいるみたいなんですが、僕はそこでバランスをとっているのが素晴らしいなぁと思うんです。


人物画までリアル路線だと、人物が背景と同化しすぎて埋没してしまうし、雰囲気もシリアスになってしまうんじゃないのかなぁと。何よりそこまでやってしまってはアニメ的な華がないというか(笑)。基本的にはアニメは少年少女のためのフィクション作品だし、自由で創造的な世界であるという出発点を見失わないよう、あえて一見アンバランスにも思える、異なるテイストの絵柄を混在させているのではないでしょうか。新海作品からは「これはあくまでアニメーションなんだ」という潔さを感じます。


f:id:ma_shan:20130602013437j:plain
のっぺりですね。



f:id:ma_shan:20130602013458j:plain
「雲の向こう〜」はかなりフェティッシュなヒロイン像でした…



ひたすら美しいゆえに儚く崩れさるイノセンス
③〜⑤は物語のオリジナリティです。新海作品の柱の部分と言ってもいいと思うんですが、どの作品も、どうやら人が成長していく上で、とりわけ子どもから大人になる上で、どうしても経験しなければならない心の高揚と喪失のようなものが描かれています。誰もが思春期に感じるとびきり素敵で素晴らしい感情。大事にすべき感情。美しい感情。そういったイノセントな心の輝きを描く一方で、それがいつかは失われてしまうんだ…ということを残酷にも突きつけていくという文法。もはや新海作品が確立しているスタイルと言えますね。


雲のむこう、約束の場所」でもご多分に漏れずその手の物語が語られていきます。そこに固執する理由がどういったものかは僕は知りませんが、ある種の執念というか、「自分がアニメでそれをやらなきゃいけないんだ」という使命感のようなものさえ感じます。新海作品の人気の由縁ではないでしょうか。やっぱりそこんとこに、すごいエネルギーがあるんですよ。



どこかで観た作品と見せかけて
⑥は全ての作品に言えるというわけでもないんですが、アニメや物語のジャンルとして、ある程度フォーマットが確立された文法を引用して、ストーリーや世界観の下敷きにするというやり方が散見されます。決まった様式なら観客が作品世界に入り込みやすいとかっていう理由もあるとは思うんですが、1番にはやはり、紋切り型の物語構造を逆手にとって利用したい、アンチテーゼ又は王道からはずらしたテーマを浮き上がらせたい…という狙いからではないでしょうか。



f:id:ma_shan:20130602013558j:plain
ほしのこえ」では近未来SF


f:id:ma_shan:20130602013633j:plain
「星を追う子ども」は思いきりジブリ臭がムンムンです(笑)ジブリはもはやジャンルだ!ということなんでしょうね。


また、新海作品で肝要な部分は、SFやファンタジーの世界そのものを左右する大きな物語ではなく、人と人の心の距離や、個人の精神の輝きや喪失といったミクロな物語です。そうしたものを描く時に、あえてシュールリアリスティックな舞台に登場人物を送り込むことで、人間の持つ特性の一部分を浮き彫りにしやすいという効果もあるでしょう。



f:id:ma_shan:20130602013906j:plain
ほしのこえ」はSFというかたちをとりながら、物理的にも精神的にも離れていく恋人同士の距離をテーマにしています。




実際に新海誠氏は「子どもたちがジブリやディズニーのようなアニメ作品ばかり観て大人になることを危惧する」みたいなことをどこかで言っていたような…(ソースが出せなくてすいません)。


これには僕も全面的に賛成で、勧善懲悪とかハッピーエンドとか、そういった紋切り型で権威的な、フォーマライズされた作品ばかり観せて子どもを育てるなんて吐き気がします。何よりそういった偏ったものを与え続けることが不健康だし、プロパガンダで情報統制する全体主義国家よろしく、ある意味ではそれは洗脳的でさえあります。様々なテーマを様々な切り口で様々に帰結させる物語がもっと多種多様に存在すべきだし、きちんと老若男女問わずそういったものにアクセスできた方がいいと僕は思います。


新海氏がどの程度何を考えてらっしゃるのかは分かりませんが、作品を観るかぎり、そういったカウンター的な精神が潜在的にあるように感じますね。


……



前置きしてたら長くなってしまいました。「雲のむこう、約束の場所」のレビューは次回に持ち越したいと思います(^_^;)


遅筆遅筆ゥ……


ちなみに夏公開で新海誠監督の新作がやって来ますね。「言の葉の庭」。今までよりも登場人物の年齢設定が上っぽいので、ちょっと違った世界が観れるかもしれません。それともまたジャンルの引用があるだけでテーマは同じかな…。期待です。


続きはこちら↓↓↓
雲のむこう、約束の場所(2004)〜その2〜


秒速5センチメートル [Blu-ray]

秒速5センチメートル [Blu-ray]

雲のむこう、約束の場所 [DVD]

雲のむこう、約束の場所 [DVD]