隣の世界の覗き窓

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雲のむこう、約束の場所(2004)〜その2〜

前回のエントリはこちら↓↓↓
雲のむこう、約束の場所(2004)〜その1〜


前回に引き続き、『雲のむこう、約束の場所』のレビューです。


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とりあえずそろそろ内容忘れそうです(笑)


新海誠らしさ、で語れる作品か
鑑賞後の感覚は「あー、ここで終わりかー。わりとあっさりストレートだよなー。」とか思ったんですが、どうにも心に引っかかるシーンがいくつかあるんですね、この作品。で、よくよく振り返って考えて見ると、「うわ…やっぱりちょっとひねってるじゃーん」というのが分かりました。


個人的には新海誠作品はそういう観賞後の突っかかり…みたいなものが残りやすいと思いますね。後々他の人と語りたくなるというか、ちょっともう一回観直してみよ…という気になるというか。特に「星を追う子ども」の観賞後は「うわ……、がっかり…。。。」だったんですが、後からじっくり検証してみると「そういうことか!よくできてんじゃん!!」とちょっとした感動を覚えたものです。まぁその話は別の回にゆずるとして、「雲のむこう〜」の話に戻ると、やっぱり今作も非常に新海誠らしさ…で語れる作品になっています



さて、前回のエントリで箇条書きにしてみた、新海誠作品の特徴です。

①雄弁に主張する繊細で美しい映画舞台
②デフォルメされた人物描写
③少年少女の残酷な成長物語
④時間・距離の前に非力な我々人間
⑤通過儀礼としての喪失体験
⑥王道アニメジャンルの引用


今作もだいたい上記のような特徴にそって物語が造られていますが、③④のあたりが分かりづらく描かれているので、そこに気づかないとビジュアルが綺麗なだけの薄味な映画になってしまいます。特に④については、他作品ではかなり物理的な時間や距離を直接物語に取り入れているのに対して、今作ではやや影に隠れて物語に作用しています。物理的な距離によって引き裂かれる人間というよりも、“精神的な「想い」の強さ”と“現実における人間同士の結びつきの不確かさ”のギャップ……と言えばいいのでしょうか…。言葉にするのが難しいんですが、そのギャップの中に生まれる哀しみややるせなさ、無力感のようなものが伝わってきます。


セカイ系未遂
⑥の王道アニメジャンルの引用ですが、今作はいわゆる“セカイ系”の文法で舞台設定がされています。

セカイ系って?

セカイ系とは「「主人公(ぼく)とヒロイン(きみ)を中心とした小さな関係性(「きみとぼく」)の問題が、具体的な中間項を挟むことなく、「世界の危機」「この世の終わり」などといった抽象的な大問題に直結する作品群のこと」


「世界の危機」とは全世界あるいは宇宙規模の最終戦争や、異星人による地球侵攻などを指し、「具体的な中間項を挟むことなく」とは国家や国際機関、社会やそれに関わる人々がほとんど描写されることなく、主人公たちの行為や危機感がそのまま「世界の危機」にシンクロして描かれることを指す。

wikipediaセカイ系東浩紀らの定義によるセカイ系 より抜粋


エヴァンゲリオン以降、90年代後半からゼロ年代前半まで流行ったセカイ系。世紀末的な終焉感とオタク・サブカルチャーが組み合わさって生まれたイメージがあります(この辺は管理人は詳しくないのであしからず…)。


雲のむこう、約束の場所」でもこのセカイ系の文法が当てはまります。ヒロキとサユリにとっては“具体的な中間項”=世界情勢や南北統一…といった問題は関係なく、かつて交わした約束や夢の世界で2人が求め合っている=“小さな関係性”のみが真実であり、なおかつ「君を救うか、世界を救うか」というスケールの釣り合わない“抽象的な大問題”に繋がっているのです。


今作ではサユリの覚醒が物語のキーになっています。並行世界の流入をたった一人で受け止め、延々と夢の世界で苦しみ続けるサユリを救いたい…しかしサユリの覚醒とはそのまま並行世界と現実世界の置換が再開されることと同義であり、世界の終わりを意味します。その二択の中で、ヒロキは迷わずサユリを救うことを選びます。今作では葛藤がヒロキとタクヤという二人のキャラクターに分担されているのが面白いですね。ユニオンの塔について考えることを放棄したがサユリのことを忘れられないヒロキ。かたや、サユリのことをなんとか忘れて塔の研究に没頭するタクヤ。ある意味、二人は別の形をした一人の人間ですね。物語終盤で二人が殴り合うシーン。これは一人の人間の中で起きる葛藤の象徴とも言えるでしょう。


結局、二人は「サユリも救って世界も救う」というご都合的作戦を決行し、爽やかな青空の下でサユリはお目覚め。塔も破壊して一件落着…という結末です。


が、、この辺りが王道セカイ系とはズラしてきているところです。基本的に世界の終わり…という終末感に支配されているセカイ系作品は、クライマックスに向かうほど混沌としたカタストロフィに突入していくのが典型です。釣り合うことのない“きみとぼく”の世界と、“世界の終わり”の危ういバランスはどうしようもなく崩壊しながら終焉へと向かって行くのです。


(例えば『エヴァンゲリオン』の旧劇場版では、子ども達の精神はどんどん不安定になっていき、街や施設の破壊は進んで行く一方です。不気味なエネルギーが肥大していき、ついには人類補完計画の達成により人々はL.C.Lという液体に還元され、最後はシンジとアスカの二人だけが地球上に残ります。)

(また、『最終兵器彼女』でも世界戦争はいっこうに終わる気配をみせず、チセの兵器化も止めることはできません。最後にはチセの手によって人類絶滅。シュウジを乗せて宇宙空間へ飛びたちます。)

(また、『なるたる』では……とかやってるとキリがないのでやめましょうかね。。笑)


基本的には、“君とぼく”が救われる代わりに“世界の終わり”がやってくる…あるいは“君とぼく”は救われないものの“世界の終わり”は避けることができた……というどちらかの終結をみることが多いのがセカイ系です。ところが『雲の向こう〜』ではサユリも救って世界も救うという二兎を追って二兎を得るハッピーエンド。僕には何もできない…ってんでうずくまってたシンジくん(エヴァ)と比べりゃあヒロキさまさま!!王子様すぎて濡れちゃう…!!ってなもんで、セカイ系ジャンルとしては至極薄味なご都合展開によるひじょ〜〜にあっさりした終結を迎えてしまうのです…。。



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約束も果たしてサユリも救って塔も壊して一件落着。ほんとヒロキくんすごいです…。



この辺りが従来のSFアニメファンなんかには物足りなく感じてしまう由縁だろうと思います。ずっとひきこもってたヤサ男がカヨワイヒロインと世界の危機をいとも容易く救っちゃう。なんだこりゃと。助けられるだけの弱っちいヒロインにも魅力ないし、男が王子様で女のコがお姫様な時代錯誤のジェンダー意識も甚だしい駄作じゃ!と言いたくなる方もいらっしゃるでしょう(笑)


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か弱くて控えめで清楚で素直な女の子サユリ…。イマドキちょっとファンタジックでフェティッシュすぎますねぇ…。



忘れちゃいけない新海作品のクセ
こんな感じで作品の表面だけ掬ってみると、いくら画が綺麗でも話がと薄っぺらすぎるんじゃないの新海さん…という気もしてきますが、そこはもう少し丁寧に鑑賞したいところです。


実は新海作品で一番重要なのは映画開始5分のモノローグなんですよね(笑)。ヒロキの回想から始まる今作ですが、作品冒頭で新宿駅から電車に乗るヒロキ、彼は中学生でも高校生でもなく、成人して東京でネクタイしめて働いているヒロキです。うっかりしていると映画を観ているあいだにその事実を忘れてしまうんですが(これも狙いか?)、この時彼はどうやらサユリとは一緒におらず、一人寂しげに青森へ向かいます。そして「まだ戦争前、蝦夷と呼ばれた島が他国の領土だったころの話」として回想が始まります。つまり語り手の視点は、ユニオンと米軍の戦争が終わり、蝦夷が日本へと南北統一された後……高校生のヒロキとサユリがユニオンの塔へ行ったよりもさらに未来に置かれているんですね。


時系列としては物語の一番最後に来るはずのポイントが最初に配置されており、なおかつ物語のラストにモノローグが入ることはありません。つまり最初のこのシーンを見逃すと物語の真の結末が分からず終いになってしまうんです。


モノローグは「いつも何かを失う予感があると、彼女はそう言った。」から始まります。つまり、物語のテーマが“喪失”にあることを最初から提示しているんですね。なんということだ…。その後も物語中では「ずっと何かを失う予感がしていた」「いつも何かを失う予感がある」「いつも予感があるの、何かをなくす予感」……などなど、とにかく“失う”ことについて何度も何度もヒロキやサユリの言葉で繰り返されます。目的語のない抽象的で漠然とした動詞の反復……というのがなんとも厨二臭くてアレですが(笑)、



さてさて、この辺まで書いてみて体力がなくなってしまいました…(^_^;)
長くなるので続きは次回。おさらいすると、とりあえず今作で何が語られているのか…という思考の前提としてまず僕は下記のような特徴に気づきました。


・物理的な距離…というより精神と現実のギャップ
セカイ系の引用
セカイ系王道展開からのズレ
・配置転換されている結末
・“喪失”への言及


きちんと観てる人には分かりきったことかと思いますが、次回のエントリで、もうちょっと感想を継ぎ足していきたいと思います(^^)


お疲れ様でした。。ナムナム……。。。


続きはこちら↓↓↓
雲のむこう、約束の場所(2004)〜その3〜